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みわ矯正歯科医院

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顎変形症の外科的矯正治療

2020/11/5

外科的矯正治療とは、矯正治療とあごの骨の手術を組み合わせて、かみ合わせを改善する治療です。「顎変形症(がくへんけいしょう)」という病気であると診断された方が治療対象となります。顎変形症は、上あごの骨または下あごの骨、あるいは両方の大きさや形・位置などの異常、上下のあごの位置関係の異常によって、顎顔面の形態的異常と咬合の異常をきたし、美的不調和を示すものと定義されます。上下のあごの骨の位置関係にズレがあり、矯正治療だけではかみ合わせを改善することが難しい場合に行います。

  • 下あごが前に出ている、しゃくれている(下顎前突)
  • あごが横にずれている、顔が曲がっている(顔面非対称)
  • 下あごが小さく、後ろに下がっている(下顎後退、上顎前突)
  • 上下の歯がかみ合わない、すき間が空いている(開咬)
  • 笑うと歯ぐきが目立つ
  • かみにくい
  • 発音しにくい

これらの歯の位置を含めたあごの骨の異常は、機能的には咀嚼(そしゃく)、嚥下(えんげ)、発音、呼吸などの異常を生じるとともに、審美的にも、さまざまな障害を引き起こす可能性があります。


下あごが前に出ている、しゃくれている
(下顎前突)


あごが横にずれている、顔が曲がっている
(顔面非対称)


下あごが小さく、後ろに下がっている
(下顎後退、上顎前突)

外科的矯正治療ってどんな治療?

外科的矯正治療は、歯を動かす矯正治療と、あごの骨の手術を組み合わせて行います。矯正治療だけでは不十分なことが多く、あごの骨の手術により、骨の形態的異常を修正して、機能的にも審美的にも調和がとれるようにします。
ただし、美容形成と外科的矯正治療は根本的に異なるものなので、「こんな風に顔を変えたい」というご要望にはお応えできません。一方で、手術で骨の形を変えることによって、お顔のかたちが変わることは避けられません。上あごの骨を動かせば鼻から唇にかけての形(お顔の中央からやや下にかけてのバランス)が、下あごの骨を動かせば唇から下あごの先にかけての形(お顔の下の方のバランス)が変わります。
矯正治療単独の場合は、上下の歯がかみ合うように、歯の傾斜をよりつよくしますが、外科的矯正治療では、あごの骨に対してまっすぐに歯を並べます。歯槽骨(しそうこつ:歯が埋まっている骨)はかむ力をまっすぐに受けることができるので、かみ合わせが安定しやすく、歯にとっても骨にとっても負担の少ない治療法といえます。

骨格性反対咬合にみられる骨の位置関係と前歯の傾きの特徴

青線: 正しいかみ合わせをしている方
赤線: 骨格性反対咬合の患者様。上あごの骨より下あごの骨が前方に位置。上の前歯のくちびる側(外側)への傾斜、下の前歯の舌側(内側)への傾斜がみられます。

 

骨格のズレが大きいとき、歯は「自然に」傾きを変えます。例えば、上図のように、上あごの骨より下あごの骨が前にある骨格性反対咬合の場合、上の前歯はくちびる側(外側)に、下の前歯は舌側(内側)に傾斜して、お互いにかみ合おうとします。これをデンタルコンペンセーション(歯性の補償)といいます。
術前矯正治療ではこのデンタルコンペンセーションをとりのぞきます。手術であごの骨の位置関係を変えた時に上下の歯がかみ合うようにするために、歯の傾きを変えるため、手術前は一時的にかみにくくなることがあります。

外科的矯正治療の流れ

最初に矯正治療(術前矯正治療)を行い、連携医療機関であごの骨の手術をします。手術後に矯正治療(術後矯正治療)を行ないます。その後、かみ合わせを安定させるために保定を行います。
矯正治療は矯正歯科が、顎矯正手術は形成外科や口腔外科が担当し、各科が連携しながら治療を行います。

 

下顎前突の外科的矯正治療

[1] 治療前
[2] 術前矯正治療
[3] あごの骨の手術
[4] 術後矯正治療

手術前の矯正治療(術前矯正治療)

手術であごの骨の位置関係を変えた時に、上下の歯がうまくかみ合うように、マルチブラケット装置をつかって歯を動かします。術前矯正治療によって、かみ合わせが変化し、治療前よりかみにくくなる場合があります。月に一回程度の通院が必要で、おおよその期間は1~2年前後です。


治療前


治療後

あごの骨の手術(顎矯正手術)

手術日程の調整
手術の見通しが立った時点で、連携医療機関の形成外科・口腔外科を受診し、入院・手術の具体的な日程を決めて頂きます。

術前検査、麻酔科診察、自己血貯血
術前検査(血液検査、尿検査、胸部レントゲン検査、心電図など)を行い、心臓やほかの内臓の病気などで治療に支障がないかどうかや、隠れた病気がないかどうかなどを十分に検査します。全身麻酔を行うにあたって、麻酔科の診察を受けます。自己血貯血(術中の出血に備えて自分の血を採って貯めておくこと)などを行います。

入院・手術
手術予定日の数日前から入院します。手術をする医師や麻酔を担当する医師が診察を行います。前日の夜から飲食を控えて頂き、体調をしっかりと整えて手術に臨みます。当日は手術室に入り、お名前を確認した後、手術が始まります。全身麻酔で手術を行います。手術が終わり、病室に戻る頃には目が覚めています。歯と歯(歯列のワイヤーについているフック)、あるいは歯ぐきに入れ込んだネジを糸やゴムでけん引してかみ合わせを固定します(顎間固定:がくかんこてい)。術後の入院期間は通常10日~2週間程度です。傷の治り具合や体の回復状況、お食事がどの程度食べられるかなどを確認し、ご自宅での過ごし方などの注意事項を聞いて退院となります。

手術後の矯正治療(術後矯正治療)

術後矯正治療
手術後、骨がきれいにつく(癒合:ゆごう)までは、2か月ほどかかります。また手術直後は、移動した骨が筋肉などに引っ張られて、元に戻ろうとします。あごの骨の位置関係を安定させるために、上下のワイヤーにゴムをかけて経過を見ます。あごの骨の位置が落ち着いたら、歯を動かしてかみ合わせの最終調整を行います。舌やお口まわりの筋肉の機能的な調和を促すために、口腔筋機能療法を行う場合があります。
月に一回程度の通院が必要で、おおよその期間は歯を動かし始めてから1年前後です。

保定
マルチブラケット装置を外した後、取り外しできる保定装置を使いながら、かみ合わせの経過をみます。2~3か月に一回程度の通院が数年間必要です。

プレート除去手術
手術のときにあごの骨を固定するために使用したプレートやスクリューの取り外しを希望される患者様は手術を行います。体に吸収される素材でできた固定用プレートやスクリューを使用した場合は、必要ありません。術後1年以降であごの骨の位置が落ち着いた時期に行います。最初の手術とは異なり、骨を削ったりするわけではありませんので、患者様の体への負担も少なく、入院期間も短いです。

通常の矯正治療との違い

上下のあごの骨の位置関係にズレがあっても、歯を傾斜させることで、ある程度かみ合わせは改善できます。ただし歯を傾斜させることができる量には限りがあり、上下の歯に十分な重なりをつけられない場合もあります。歯の根っこ(歯根「しこん」といいます)は通常歯槽骨の中に埋まっていますが、歯槽骨から歯根がはみ出すような歯の移動は不可能だからです。外科的矯正治療では、あごの骨に対してまっすぐに歯を並べますが、矯正治療のみの場合は歯をより傾斜させて(上の歯はより外側に、下の歯はより内側に傾けます)並べていきます。治療により骨格は変わらないので、お顔かたちの大きな変化もありません。

外科的矯正治療の治療費

当院は、顎変形症の矯正治療を行うための顎口腔機能診断施設(一定の施設基準が必要となっています)の指定を受けておりますので、治療には健康保険が適応されます。
治療にかかる費用は症例によってかなり異なります。矯正治療の内容および期間、手術の内容、入院日数によって変わってくると思います。

健康保険適応時の治療費の目安

矯正治療 平均40〜100万円前後(平均45万円程度)
手術費用 平均25〜50万円前後(平均25万円程度)

※外科的矯正治療は高額療養費に対する償還払い制度(高額療養費制度)の対象になりますので、1カ月間に支払われた医療費の自己負担額(差額ベッド代などは除く)が定められた限度額(標準報酬月額により変わる)を超えた場合に、患者様からの申請により、払い戻される場合があります。該当するかどうかのご確認や申請の手続きは、市町村の窓口等でお願いします。

 

よくある質問

手術した方がいいか、悩んでいます。矯正治療だけで治す場合と、どう違いますか?
A仕上がりがまったく異なります。手術をして上下のあごの骨の位置関係を変えることで、かみ合わせを整えるのが外科的矯正治療、骨格の問題はそのままに、歯を傾斜させることでかみ合わせを改善するのが一般的な矯正治療です。外科的矯正治療で手術をすると、お顔のかたち、お口もとのバランスが変わりますが、矯正治療単独では、お顔かたちに大きな変化はありません。
手術の適応か否かは、外科的矯正治療を専門とする口腔外科医あるいは矯正歯科医の診断が必要です。当院では初診カウンセリングで患者様の状態を確認し、明らかに手術をしないとかみ合わせを治すことができない、という場合には最初から外科的矯正治療の御提案をさせて頂きます。しかしながら、通常の矯正治療単独か、外科的矯正治療の適応か、明確な線引きがあるわけではありません。実際はどちらの方法も選択できる患者様が多くいらっしゃいます。このようなボーダーケースの場合、どのような仕上がりを目指したいかによって、治療方針を選択されるとよいでしょう。ご自身の歯ならびやお顔かたちのとらえ方、矯正治療に対する考え方は患者様によってかなり違います。例えば、骨格のズレは大きいけど、その条件の中で矯正治療を行い、(完璧なかみ合わせを作ることはできなくても)できる範囲で改善するという目標で治療を進める患者様もおられるかもしれません。症状ごとに最初から決まった治療方針があるわけではなく、患者様それぞれのゴールがあっていいと私は考えています。
もし、お顔のゆがみ、かみ合わせのことで悩んでおられたら、まずはご相談ください。そして患者様の率直な想いをお聞かせください。
当院では、外科的矯正治療を検討しておられる患者様に、連携医療機関の口腔外科・形成外科への受診をすすめています。(もちろん、口腔外科・形成外科で手術のお話を聞いたからといって外科的矯正治療をしなければならないという訳ではありません。)矯正治療について、手術について、入院について…ご心配なことがありましたら、遠慮なくお尋ねください。患者様のお気持ちを一番大切にして、専門的な立場からアドバイスし、あなたにとって最良の方法は何か、一緒に考えたいと思います。
手術のリスクは?
Aご存知の通り、お顔にはいろいろな感覚器官が集中していて、血液の流れも豊富です。骨の中にも太い血管や神経が通っていますから、骨を切る手術にはさまざまなリスクがあります。(基本的にはすべての操作をお口の中から行いますので、お顔に手術の痕が残ることはありません。)
また、顎変形症の手術は全身麻酔をかけて行いますので、あらかじめ患者様のお体の状態の診査が必要となり、全身麻酔によるリスクもともないます。

顎矯正手術の主なリスク

  1. 神経が障害を受けてしびれが出る可能性があります。
  2. 血管の損傷により、出血量が多くなる可能性があります。出血が多くなった場合、ご家族に承諾を得て、輸血をする場合があります。
  3. 術前に予期できない神経・血管の異常走行によって、手術を途中で中止せざるを得ない場合や、止血や関節脱臼などのために、再手術を必要とする場合もあります。
  4. 上あごの骨、下あごの骨の移動にあたっては、「かみ合わせ」を指標にその位置を決めています。手術後にはお顔が変わりますが、お顔のかたちを変えることが外科的矯正治療の目的ではありません。ですから、手術による容姿の変化が、患者様ご本人にとって望ましいものになるかどうかはわかりません。
  5. 動かした骨と骨の継ぎ目は、手術直後には段差がありますが、時間がたつと出ている部分は引っ込み、引っ込んでいる部分は出てきて、しだいになだらかになっていきます。お体の健康状態やかみ方の癖、筋肉・皮膚の緊張によって、骨の新陳代謝が順調に行われない場合は骨の形がいびつになることがあります。
  6. 睡眠時無呼吸の既往のある患者様は、下あごの骨を後方に動かす手術を行うことにより、症状が悪化する可能性があります。
  7. 手術によりお口の中の状況が大きく変わります。新しい口腔環境に適応するためには、術後矯正治療と機能訓練(リハビリテーション)が重要です。これを怠ると、もとの位置に顎が動いてしまい(再発)、手術の効果が失われる可能性があります。

当院では、外科的矯正治療を検討しておられる患者様に、連携医療機関の口腔外科・形成外科への受診をすすめています。手術を担当する医師の説明を直接聞いてみてください。
最近はインターネットの情報を見て不安な気持ちばかりがふくらんだ状態でお見えになる患者様も多くいらっしゃるように思います。医療の技術は日進月歩しており、入院期間、手術の術式、リスクへの対応、患者様の心身へのご負担も5年前、10年前と比べて大きく改善しております。お顔のゆがみ、かみ合わせのことで悩んでおられ、手術に対して不安・心配のある方は、遠慮なくご相談ください。
顎変形症の手術は、生死にかかわる病気を治すための手術とは異なりますので、必ずしなければならないという訳ではありませんし、緊急性も高くありません。手術のリスクをよく理解した上で、じっくり検討し、納得して治療を進めていけばよいと思います。

外科的矯正治療ではどんな装置を使いますか?
Aマルチブラケット装置を使います。手術時の装置脱落を防ぐために、奥歯にバンドという金属の輪をはめこんたり、万が一装置が外れた時にレントゲン検査で確認できるような素材を使用したブラケットを採用しています。上下のあごの位置関係を安定化させるために、術後にゴムやワイヤーを使用することがあります。
入院期間はどのくらいですか?
A手術の内容、患者様のお体の状態により異なりますが、通常10日~2週間前後です。
いつ頃手術になりますか?術前矯正治療の期間はどのくらいですか?
A歯ならび、かみ合わせの状態にもよりますが、術前矯正治療にかかる期間は通常1~2年前後です。抜歯をするかどうか、どのような歯の動きが必要かによって、術前矯正治療の期間をある程度予想することはできますが、実際に歯を動かしてみないと分からない部分もあり、予定より長くかかる場合もあるかと思います。当院では、術前矯正治療の経過をみながら、手術の見通しが立った時点で、患者様にお知らせいたします。連携医療機関の形成外科・口腔外科を受診し、手術を担当する医師と相談の上、入院・手術の具体的な日程を決めて頂きます。
手術の後は、どれくらいで普段の(手術前と同じ)生活に戻れますか?
A退院時には顎間固定(がくかんこてい)が解除されていますので、会話には支障がありませんが、お口が開きにくい状態はしばらく続きます。お食事は、しばらくは軟らかめのものを召し上がって頂きますが、約1か月後には普段と変わらない内容でも問題ない場合が多いです。
社会人の方にとっては、仕事にいつ復帰できるのかは、大変気になるところかと思います。もちろん、お体の状態や手術の内容によって異なりますが、肉体的な重労働を除いて、体力が回復すれば、術後2週間程度でも復帰することが可能です。ただし、激しい運動やあごを強打するおそれがあるスポーツは、2~3か月間は控えてください。
機能訓練(リハビリテーション)が必要と聞きましたが、なぜですか?
A外科的矯正治療をする場合、手術によりお口の中の状況が大きく変わります。手術後はしだいに舌やお口のまわりの筋肉の機能的な調和がとれていきますが、状態によっては新しい環境への適応を積極的に助ける必要がある場合があります。特に開咬(上下の歯がかみ合わない)の症状のある患者様には、舌の動かし方に特有のパターン(癖)があり、舌の動きをうまくコントロールできない場合は、かみ合わせが安定しにくく、治療後の後戻りも生じやすくなります。このような場合は、機能訓練(リハビリテーション)として、舌やお口まわりの筋肉の動かし方のトレーニング(口腔筋機能療法)を矯正治療と平行して行うことがあります。

舌やお口まわりの筋肉と「かみ合わせ」の関係については、こちらをご覧ください。

外科的矯正治療は保険がききますか?医療機関によってかかる治療費は違いますか?
A医療機関が顎口腔機能診断施設かどうかによって、かかる治療費が大きく異なります。当院は、顎変形症の矯正治療を行うための顎口腔機能診断施設(一定の施設基準が必要となっています)の指定を受けておりますので、治療には健康保険が適応されます。
顎口腔機能診断施設以外で、外科的矯正治療を受けられる場合は、治療費は全額私費となります。術前・術後の矯正治療にかかる費用、入院・手術にかかる費用、いずれも健康保険の適応にならないため、患者様のご負担はかなり大きくなります。保険適用される矯正歯科治療を行える医療機関は、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た保険医療機関のみになります。この保険医療機関の名簿に関しては、厚生労働省の地方厚生局ホームページに最新の情報が掲載されておりますので、ご確認ください。> 厚生労働省 地方厚生局ホームページ検索方法:
お住まいの地域の厚生(支)局ホームページにアクセス→サイト内検索に「施設基準届出受理医療機関名簿」を入力→県別の受理医療機関から歯科のPDFを探す→そのPDFから「顎診」(顎口腔機能診断料算定)の指定医療機関を探す富山県における「顎口腔機能診断施設」の届出受理状況は以下の通りとなっています。
富山市4、高岡市3、砺波市2、魚津市1、射水市1施設(2020年9月現在)